「もう少し、横に退いてよ。外が見えない」 屋敷の一室、月明りに男の姿がふたつ、照らされた。 「あぁ、すまんすまん」 言われた男は腰を上げ、縁側へと座り直す。 座敷の部屋に敷かれた布団から、もう一人が空を見上げる。 開いた空間から、ぼんやりとした月が覗いた。 「今夜は、朧月だ」 嬉しそうに、笑う。 「そうだな…昨日によく似ている」 つられて、縁側からも嬉しそうな声が聞こえた。 「ねぇ、勾…」 手を伸ばし、手の平に月を納める。 「僕はあの子に託すしかなくなってしまったけど、きっとあの子は全てを導く光 となる。…だから、安心して沙依の元へいくよ」 「…大丈夫。あとは任せておきなさい」 ふと流れた雫を隠す様に、彼へ背を向けた。 「…あの子に……朧に運命を背負わせた、僕は本当に忌むべき父だ」 「…それを決めるのは、望じゃない。朧だよ」 さらさらと庭に桜花が舞う様を、朧月が静かに照らした。 戻る。