眠い。
恭平は、ぼーっと窓から見える空を仰いだ。
前では、教師が念仏を唱えるような講義を続けている。更に眠気を誘った。
昨日一昨日と、恭平はまたあの夢を見た。
夢と現を分ける、自分のいない現実の夢。
幸季はそれを、汚れを浄化する夢だと言った。
原因は分かっている。西野の家でのことだろう。
流れる雲を目で追いながら、ぼんやりと思いが巡る。
思えば、不可解なことだらけだった。
夢魔によって自殺に追い込まれたと思われる西野の彼女、相川真紀。
そして、西野の夢はその彼女によって汚し尽されようとしている。
相川真紀の『憎むべき愚者』とは、西野のことだったのだろうか。
そして、彼女の夢に現れた『彼』とは何者なのか。
―――――――やっかいなことに巻き込まれたなぁ……。大体、俺あの人達に騙
されてたらどうしよ…
沈む気分と同時に、頭も下がる。
ふと、下がる視線に窓際が映った。
―――――――そういえば、西野はあの日相川さんの席で何を…。
西野を二年生の教室で見掛けたのは、倒れる前日のことだ。
そういえば、肝心なその席をしっかりと調べていないことに気が付いた。
***************
すっかりと、辺りは夜闇に包まれていた。
「こ、こわ………」
自然と辺りを見回してしまう。やはり、常識通り夜の学校は怖いものだった。
恭平は、手元の懐中電灯を頼りに、校舎の裏手へと回る。慣れない作業なだけに
、足取りは自然と迷いを伴っている。
教室の窓の前、花壇の並ぶ道を過ぎると、小さめの窓が二つ並ぶ。小さいとはい
え、人ひとり入るのには十分な大きさの窓だった。
そこは、廊下突き当たりのトイレだ。構造上、どの階にもこの場所にトイレはあ
る。
「よっ」
目の前の窓は、すんなりと開く。
はずだった。
「…………………!?」
声に出せない驚きと焦り。
恭平は懸命に開くはずの窓を引っ張る。がたがたと、窓枠から音が響いたがこの
際かまっていられなかった。
「!」
と、突然恭平の視界が奪われる。
「ま、眩し…!」
向けられた光の線を追うと、二階の窓に繋がった。
「…幸季!」
そこには、いつもの笑みを浮かべた顔があった。
「ちょっと、うるさいよ始くん」
それだけ下に言い放ち、彼の影は窓際から離れていった。
「……………ちょっと!!!」
思わず叫んでいた声は、しんとした闇に響く。慌てて口元を押さえても後の祭だ
。
「だから、うるさいんだって」
カラカラと、あれ程固かった窓がいとも簡単に開き、先程の影がそこから顔を覗
かせた。
「ご、ごめん…じゃなくて!何でここに居んのさ……!」
「とりあえず、入るなら入ってよ。こんなところで話していたくないんだけど」
「…はいはい」
窓枠に足を掛け、中に入る。予想外の事態に、表情は浮かない。
その後ろで幸季が窓を閉め、鍵をかけた。
「さてと、行こうか」
「ちょっ、どこに!」
すたすたとトイレを出る背中に、恭平は声をかける。
「どこって、二年の教室だよ。君、相川真紀の席を調べに来たんじゃない
の?」
「………そういう幸季は?」
「偶然誰かさんがトイレの鍵を開けて帰ったのを見掛けたから、調査にいい機会
だと思って来たんだよ」
そう言って、くすくすと笑った。
「じゃあ鍵閉めることないじゃん…」
「最近は物騒だからね」
―――――――性格悪っ。
やはり、恭平は目の前の人間を好くことは難しいと確信した。
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