こんな秋の転校生は、きっと訳有りだ。








教卓の前に立つ、その季節外れの転校生を見て、恭平は思った。





「黒宮幸季といいます。どうぞよろしく」





軽い会釈の動作、その後の整った顔での、微笑。


女子の噂の種になるには、充分すぎるほどだった。





ツカツカと与えられた席に向かう彼を、みんなが目で追う。


そこは、一番後ろの窓際の席。恭平のすぐ左隣だった。





「よろしく」


椅子を引きながら、転校生は言った。





「ぁ…うんっ」


恭平が少し上擦った声で返事をすると、彼はくすくすと小さく笑った。





そんな転校生を見て、恭平は少し嫌な気持ちを抱いた。


自分に合わないタイプの人間だと、無意識に脳が区別をしている。





しかし、隣の席ともなると関わらざるを得ない。


恭平は、机から英語の教科書を引っ張り出しながら、小さく溜め息をついた。





***************








秋とはいえ、日の当たらない部室はやはり寒い。




那美がストーブを付ける中、恭平は震えながら近くの椅子に座った。





「あーぁ。もうすぐここにも来なくなるんだよねー」


机を挟んだ、恭平の前の椅子に座りながら、那美はぽつりと言った。





そろそろ、3年生は部活を引退する時期だ。


これから受験に向けての、部活とは類の違う忙しい日々と付き合わなければな らない。





「ぁー…うん。でもさ、また遊びに来れる訳だしさー」


「…まぁね!さ、みんなが来る前にやることやっちゃおーよ」



那美は持ってきたファイルから、プリントの束を出した。





と、その時だった。




部室のドアを、誰かがノックしている。




恭平が音の方を見ると、上半分がガラスになったドアからは、嫌な来客の顔がす ぐに分かった。



今日来たばかりの、あの転校生だった。




「あ!どうぞどうぞっ」


那美が慌ててドアを開け、中へ招き入れる。



「ありがとう。ここ、バスケ部の部室だよね?」


幸季は、微笑を浮かべながら那美に問う。



「うん、そうだけど…もしかして、部活見学?」


「そうなんだ」



言うと、幸季は視線を部室の奥へと向けた。



「…ふーん」



「あ、あのさ…今俺達忙しいんだ…だから、見学とかさせてあげられないと思う よ……?」


部室を眺める幸季に、恭平は少し控えめに言った。



「…あ、君隣の席の始くんだよね。君がバスケ部の部長だったなんて、女の子達 から聞いてびっくりしたよ。早く言ってくれれば良いのに」


すると、幸季はまたくすくすと笑う。





何だか馬鹿にされた様な気分で、恭平は苛立ちを覚えた。




「……俺が何部の部長だろーが、あんたには関係無いでしょ?ってか、俺がバスケ部 の部長だからって何なのさ。別にあんたが得することなんて…」


「西野 将くん。ここの部員でしょ?」





不快感に任せた恭平の言葉を、幸季が静かに遮った。





「………ぇ、何で…西野くんのこと、知ってるの…?」


那美が、恐る恐る幸季に問う。





「…さて、ね。じゃあ、忙しいところお邪魔して悪かったね。また明日」


答えも言わず、幸季はドアを開け、部室を出た。





ドアから去っていく影を見つめ、恭平はつくづく自分勝手な転校生に、また苛立っていた。











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