「2年1組。西野くんの彼女だった、相川真紀ちゃんがこのクラスだった」





屋上で、恭平と幸季は昼食をとっていた。



「うん。西野も1組だったんだ。…そういえば、あの日西野は相川さんの席で泣 いてたんだ……」


「あぁ、君が最後に西野くんを見た日か…」


とりあえず、恭平は幸季にこの頃の異変を全て話していた。





「……君の話だと…西野くん、危ないね」


「危…っ!?どういうこと!?」





「始くん………君、黒い煙の様なもの、見たんだよね」



西野を取り巻いていた、黒いもの。


恭平には、はっきりと見えた。





「…アレ、何なの?」


「……"汚れ"、かな。西野くんは、"夢"を汚されてるんだよ」


「夢…」


「君だって危なかったんだよ」


幸季は、少し顔を厳しくした。





「君はその"汚れ"に近付いた。僕達の様に、"汚れ"への耐性をある程度持ってる 人間は、自然と夢を浄化するんだよ。…それが君の見た、"自分だけが存在しない 、現実と全く同じ夢"なんだ」



「…黒宮も、見るの?その夢」




恭平が問うと、幸季はわずかに戸惑った顔を見せた。


「…あ、そうか。ごめん、名前で呼んでくれないかな。名字だけ、偽名なんだよ 」


「名字だけって…」


「本名は高橋。高橋幸季。…この名字出すと色々面倒なんだ」


幸季がくすくすと笑う。




「ふーん…じゃあ、幸季。さっきの質問だけど」


「うん、あの夢なら僕も見るよ。…あの夢にはね、"夢と現を分ける"意味が有る んだ」


「逆に、ごっちゃになりそうだけどな…」


「確かに、そうかもしれない。でも、"自分が存在しない"という有り得ない状況 が、夢と現を分けるんだよ。僕達にとって"夢か現か分からなくなる"ことは…… …死を意味する」





恭平は、幸季の言葉に少し身震いをした。





「良かったよ、君がそれほど汚れを受けていなくて。」


「………うん……」





と、恭平がうつ向き始めた時、電子音が響いた。


「あ、ごめん」


幸季はポケットから携帯電話を取り出し、立ち上がって恭平と少し距離を取った 。





「もしもし?…あぁ、龍さん」



話し始めた幸季の背中を、恭平は無意識に見つめていた。



しばらくすると、また厳しい表情を浮かべ、幸季が戻って来た。





「…やっぱり、予想が当たったよ。西野くん、突然倒れて病院に運ばれたらしい 」








***************








よく訪れる、都市だった。




高いビルが所狭しと立ち並び、人は街に溢れかえっている。



そんな見慣れた街並みを少し外れると、こんなにも寂しくなるものなのか。





恭平は、幸季の後を追いながらそんなことを思っていた。





「ここだよ」





幸季が立ち止まって示したのは、人が二人並べば塞がってしまうような、細い路 地だった。





「この先に、君と会いたがってる人がいる」


「…」





恭平は、路地の奥を見つめた。





建物の陰で薄暗くされた路地。


どこか、深い深い場所へと誘うように奥へと続いている。





「…大丈夫だよ。随分不気味に見えるけど、何も怪物が出る訳じゃないし」


少し怯えた様子の恭平に声をかけると、幸季はスタスタと路地を進んだ。





「ゎ、ま、待って!」


恭平は急いで後を追った。


路地は明らかな一本道であるが、はぐれたら帰れなくなる。


そんな不安が、恭平を急がせていた。







少し進んだところで、もう目的地が見えた。




然程大きくはない古めかしい家。


ビルに囲まれ、そこだけが別の空間に有るかの様に佇んでいた。





ふと、恭平は軒先の看板が目に入った。


「夢幻…」





「そう。それが、この店の名前だよ」


言うと、幸季は店のドアを開けた。








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